トレブルスター:ヤープ・スタム
1998-99シーズンのチームを構築中だった当時のアレックス・ファーガソン監督にとって、ヤープ・スタムはジグソーパズルの最後の1ピースだった。彼の入団により、チームにワールドクラスのディフェンス力が加味された。その結果が、フットボール界で前人未到のトレブル達成である。
スタムは元監督からのラブコールに応え、来月行われるトレブル記念試合で、オールド・トラッフォードに戻ってくる。
ヤープ本人のコメント
「あのチームでは、あらゆることが同時に起こったという感じだった。偉大な監督、そして選手達。
チームの全員がお互いに切磋琢磨し合っていた。目指す基準は常に最高のところに設定されていた。そして全員が持てる力をすべて出し切るという覚悟を持っていた。誰もが自分に課せられた使命を理解していたし、状況ごとに自分が何をすべきかわかっていた。シーズンが終わる頃には、3つのトロフィ全部を勝ちたい、と望んでいたよ!」
「自分たちが持てるパワーを使ってすべてを実現したいと思っていた。そのために、他のことはすべて脇に追いやれる覚悟だった。そでができて 初めてトロフィが獲れる。自分たちにはその覚悟があった、そして実現した」
1989-99シーズンのスタム
20年前、センターバックの移籍金に1050万ポンドといえば、法外な金額だった。しかし、その金額をこの屈強なオランダ人DFに投じたのは、非常に賢い選択だった。クラブ最高額での移籍は、W杯の最中に発表された。その大会に彼はオランダ代表として参戦し、ベスト4入りを果たした。
デビュー戦はLKSウッジ戦だった。ユナイテッドが2-0で勝利し、スタムも印象的なパフォーマンスを見せたが、同時に、イングランドのスタイルに順応するには時間がかかるかと思われた。スタム自身もかつて「最初はなかなか厳しかった。この国のあらゆることに馴染むのに時間が必要だ」と語っていた。
「まだ若いのに国を変えて家族を持った。まずはイングランドのメンタリティに慣れる必要があった。英語も、たまに話すのではなく、常に話さなくてはならない」
しかしヤープはすぐに順応し、やがてチームにとって最もパフォーマンスの安定した頼れる戦力の一人となった。それを顕著に表したのがチャンピオンズリーグだ。彼はフィールドプレーヤーで唯一、全試合にフル出場した。
スムーズに流れるようなスタイルだった当時のフットボールにおいて、スタムはバックラインにデンと陣取る屈強な戦士だった。彼はまるで山のごとく、あらゆる局面で体を張った。このシーズン、ヤープは51試合に出場した(リーグ戦30試合、FAカップ戦8試合)。
ヤープのハイライトシーン
1998-99シーズン、ヤープは1度だけゴールネットを揺らしている。6-2で勝利した1月のレスターシティー戦だ。がしかし、彼が真に輝いていたのは、やはりピッチの逆サイドだ。とりわけチャンピオンズリーグでのパフォーマンスは、彼のユナイテッド時代において最高といえるものだった。このシーズン彼は、このコンペティションの年間ベストディフェンダーにも選出された。
インテル・ミラン戦では、2試合ともイバン・サモラノを黙らせた。またサンシーロでの対戦���も、当時絶頂期にあったブラジル人FWロナウドを見事に抑えた。
準決勝のユベントス戦では、フィリポ・インザギのゴールをラインぎりぎりで防ぐ殊勲もののプレー。その時ユベントスは2-1でリードしている状況だった。もしあの得点を決められていたら、その後のユナイテッドの逆転劇もなかったかもしれない。
識者たちのコメント
ギャリー・ネヴィル
「新しいクラブに来て、新しい国、仲間・・と環境が変わっても、ヤープはそれらすべてを難なく乗り越えた。素晴らしかったよ」
ポール・スコールス
「ピッチの外では彼はとてもおとなしいんだ。ロッカールームでもほとんど話さない。でもピッチに上がったとんたん、彼が戦闘モードに入ったのがわかる。彼は、『アイツとは対戦したくないな』と相手に思わせる選手だ。ピッチの上では野生のアニマルみたいだったよ」
カンプノウの後は?
ヤープはその後2シーズン、ユナイテッドでプレーし、在籍した3シーズンすべてでプレミアリーグ優勝メダルを手にした。
2001年にラツィオに移籍し、そこで2004年にコパ・イタリアに優勝。その後ACミランに移り、2シーズン後に故郷のオランダに戻ってアヤックスでプレーした。16年間のプロキャリアののち、2008年に現役を引退した。
その後すぐに指導者に転身し、PECズヴォレやアヤックスでコーチとして研鑽した後、2016年にレディングの監督に就任した。在任中、FAカップ3回戦で、ヤープは敵陣の監督としてオールド・トラッフォードに凱旋している。46歳の現在はPECズヴォレの監督を務めているが、来シーズンはフェイノールトの監督に就任することが先日発表された。
5月26日のトレブル記念試合のチケット発売中。収益金はすべてマンチェスター・ユナイテッド基金に贈られる。
イラストは、ユナイテッドファでオールド・トラッフォードのシーズンチケットホルダー、スタンリー・チョウ氏によるもの。彼の『トレブル・ウィナー・コレクション』はここで見ることができる。