鋼の精神で己の道を切り拓いたサビツァー
マルセル・サビツァーの父ヘルフリードは、国際的に活躍したサッカー選手だった。よって彼には、成長する過程において、フォローすべき偉大なる足跡があった。
サビツァーの父はオーストリア代表として6回プレーし、1995年の欧州選手権予選のリヒテンシュタイン戦ではゴールをマーク。2020年にマンチェスター・ユナイテッドも対戦しているLASKリンツなど、国内のトップチームでプレーした。
つまりサビツァーは、プロフットボールの世界の中で育ってきたのだが、それは、有名選手の息子として己の道を切り開いていく上で必然的に立ち向かうことになる、あらゆることに対処しなければならないということでもあった。父親のニックネームだった「サビ」が自動的に受け継がれたことでさえ、自分にはどうしようもないことであり、そうした過程で、彼はおのずと強い考え方やメンタリティの必要性を学んでいった。
マルセルについて書かれたものを読むと、必ず分かることがある。それは、プロフットボールになることを早くから目指していたこと以上に、彼が、自分の力で道を切り開く、ということに懸命に立ち向かってきたということだ。
それにはヘルフリードのように母国で成功するだけでは不十分だった。もっと視野を広げ、何年経っても記憶されるようなオーストリア最高の選手になること、それが、自分が掲げる野望の一つだと、マルセルは認めている。
バイエルン・ミュンヘンから、移籍期限の最終日に期限付きでオールド・トラッフォードに移籍したマルセル。その彼が、オフィシャルマガジン『Inside United』最新号の表紙を飾っている。そしてこの中に掲載されている独占インタビューでは、時間を気にすることなく、バックグラウンドやキャラクターについて、深い洞察とともに面白い話を聞かせてくれている。
早い時期から、彼の中には明白な意欲と決意があり、フットボール界に自分の爪痕を残すために成功するというビジョンを、彼は明確に自分の中に描いていた。
「僕はオーバーエスタライヒで生まれた。でも子供の頃はグラーツで過ごした。南部にあるスロベニアの近くだ。そこでは楽しい時間を過ごしたよ。サッカーを始めたのも早かったし、本当に幸せな時期だった。9年生が終わったとき、僕はそこからの人生はフットボールに集中することに決めた。そして、プロのフットボーラーになることが僕の一番の目標になった。その頃は学業にはあまり関心がなかった」。
「小さい頃から、父のロッカールームやトレーニング場によくついて行っていた。だから、サッカーは常に身近な存在だった。僕もプロのフットボール選手になるのが夢だったから、父と一緒に過ごした少年時代や、父がオーストリアでビッグプレーヤーに成長していく姿を見るのは貴重だったよ。本当に楽しかったな。でも、ずいぶん早い頃から、僕は自分で自分の足跡を残すんだ、ということは分かって��たし、順調にやってこられた」。
サッカー界で成功した父親をもつ人なら誰でも経験するように、サビツァーにもユースサッカー界では特別なプレッシャーがあった。それに対処する秘訣は、誰よりも努力すること、そして、いつか父の功績を超える、というシンプルな目標に集中することだった。
「最初の頃は、プレッシャーがあった。周囲が騒いでいたからね。『彼は父親のおかげでプレーしているんだ』って言われたりね。でも最終的には、僕の存在を認めてもらえたし、僕がユースチームで多くの出場機会を得ても問題なかった。僕には才能があったし、一生懸命がんばっていたから、周りの人たちもそれを早いうちから見抜いてくれていたのだと思う」。
「小さい頃から、僕の目標にはブレがなかった。父が(オーストリア)ブンデスリーガや代表でプレーしているのを見ていたから、その父よりも上に行くことが僕の目標だった(笑)」。
現在マルセルは、オーストリア代表68キャップを数える。このインターナショナルブレイク期間中にも、その数はさらに増えそうだ。父親に自分の目標を達成したことを伝えたのかと尋ねると、彼は愉快そうに笑った。
「前に話したことがあるよ。でも、そうだね、彼は誇りに思ってくれているし、僕は彼とはたくさん話をするんだ。彼は息子を誇りに思ってくれているよ」。
13歳のマルセルが、インタビュアーに「海外でプレーしたい」と話しているテレビ映像が残されている。そこに映っているのは、夢を追いかけるだけでなく、それを実現しようとする意欲にあふれた少年の姿だ。
「そのインタビューは覚えているよ!いま見るとなんだか恥ずかしいけれど、でも、さっきも言ったように、僕はそのことに本当にフォーカスしていたんだ。僕の目標は、オーストリアから出て、この国の歴史に名を残すビッグプレーヤーになることだった。そしていま僕はその道を歩んでいる。僕は、国外でプロフットボール選手として活動しているいまの生活を本当に楽しんでいる。これからも続けていって、多くの人から『彼はトッププレーヤーだった』と言われる存在になりたいんだ」。
自分の才能を証明したいというサビツァーの意思は、ユナイテッドでも役立つことだろう。ここには彼と同じような考え方やアプローチをするチームメイトたちがいるからだ。エミレーツFAカップ準々決勝のフルアム戦では、入団後初ゴールをマークした。彼が即興で放った見事なフリックで、レッズはウェンブリー行きを決めた。
とはいえ、この29歳は、自分が成し遂げようとしていることへのフォーカスを決して見失わないタイプの人間だ。
こうしたマインドセットに加え、これまでのインタビューでも彼が指摘してきたのが、「誠実であること」の大切さだ。こうした姿勢こそが、周囲をとりまくすべての人々に恩恵をもたらすものだと彼は信じている。
「100%そう思う。それが一番大事なことだと思う。それから試合に勝つこと、ポイントを押さえるといったメンタリティ。ピッチに立ったとき、全力を尽くして自分の力を証明する。仲間達にとって誠実であり、ピッチの中で自分の人生をしっかりと生きることだ」。
「このチームにはそうした人たち(勝者)が大勢いる。良いメンタリティーを持った巨大なグループだ。そのグループに加われたことを本当にうれしく思っている」。
「サッカーはアップ&ダウンが激しい世界で、心身ともに強靭である必要がある。そしていま起きていることに常にしっかりフォーカスすることだ。厳しい状況のときには、それがとても役に立った」。
マルセルにとって、シーズンの残り2ヶ月の間に、さらに多くの“アップ”が待っていることを願いたい。この先も、祖国、そして国外の両方の舞台でチャレンジに挑むための覚悟が、彼にはできている。
インタビューの全文は、クラブオフィシャルマガジン『 Inside United』最新号で。