アレックス

サー・アレックス、オールド・トラッフォード最後の日

マンチェスターの上空を、年間360日は覆っているどんよりとした灰色の空のことなど、その日はどうでもいいことのようだった。

オールド・トラッフォードは、サー・アレックス・ファーガソンが在籍した期間中、いつも見られたおなじみの午後の光景になるはずだった。

ユナイテッドのメンバーは、リーグ王者としてピッチに歩み出た。そこまではいつもどおりだった。

しかし、たちまちスタジアムを稲妻のような声援が包み込み、そのあまりの凄さに、雨も止む機会を逸してしまった。

その前日、伝説の指揮官は、このスウォンジー・シティー戦が、オールド・トラッフォードでの最後の試合になると発表していた。

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サー・アレックスが、監督としてオールド・トラッフォードのトンネルを抜けてピッチに登場した最後の瞬間

ほんの7年前のことなのに、もうすでにあれから何十年も経った気がするのは、このスコットランド人監督の偉業が、簡単に真似できないほど偉大なものであるからかもしれない。

サー・アレックスが率いたユナイテッドに熱狂して育った者たちは、20年間に13回のタイトルを勝ち取ることのない、ときにはプレミアリーグでトップ3にすら入らないようなチームをサポートすることが、どんなことかを知らない。

しかし、彼が監督として最後にオールド・トラッフォードに立つというほろ苦い思いが入り混じったあの日、あの場所にいたときの気持ちはいったいどのようなものだったかといえば、不思議なことに、とてつもなくエキサイティングだった。ボスは素晴らしかった。彼が勝利に賭けるあくなき意志。ファンはみな、この名将がいたからこそ、数々の成功を手にいれることができたのだと確信した。

彼が去ったあとに待ち受けていたものは、言ってみれば、小学校に入学した初日のような、未知の体験を前に緊張で胸の中がざわつく、そんな感じだった。


スウォンジー戦の日は、ただただ、純粋な感動に満ちていた。

冒頭で天気について触れたが、空は、この日がサー・アレックスのシアター・オブ・ドリームスでの最後の試合だという通達を受け取っていなかったんじゃないかと思った。

それに、その数ヶ月前に、この記念すべき日にアップダウンの激しいピーク・ディストリクトを80マイル走破するなどというチャリティライドに申し込んでいた私もまた、そのことを失念していた。

この日はとりわけどしゃぶりだった。

でもなんとか、監督がピッチに登場して歓声を浴びる瞬間までにはオールド・トラッフォードにたどり着くことができた。何時間も冷たい雨の中、自転車をこぎ続けて心身とも疲弊しきっていたが、なんとか自分の席にたどり着くと、隣の席の男は、サー・アレックスが声援を受ける様子を見て泣いていた。


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リオ
サー・アレックスがユナイテッドの監督として最後の勝利を飾った試合をチェック

試合そのものは、とくに記憶に残るような内容ではなかった。彼にとっても、この試合が最後のホーム戦だったポール・スコールスが、最後にゴール数に1点加算しようと狙ったのか、中盤から飛び出してシュートを打った。

しかし決勝点となったのは終盤のリオ・ファーディナンドの一打だった。この日はまるで、フットボールのほうが「おまけ」のような感じだった。それほど特別な雰囲気に満たされていた。試合が終わると、ユナイテッドにとって20回めとなるリーグ優勝のトロフィーを授与されたが、そのときの思いは複雑だった。

胸が痛くなりだしたのは、試合終了のホイッスルのあと、サー・アレックスがピッチに歩み出たときだ。スタンドの観衆に向かって彼は言った。

「みなさんは、私の人生でもっとも素晴らしい経験となりました」。


スコールス
レジェンド、ポール・スコールスもこの日オールド・トラッフォードで最後の試合を戦った

彼のスピーチで一番記憶に残ったのは次の一節だ。「それからみなさんに思い出してほしいのは、苦境にあるときでも、クラブが私をサポートしてくれたことです。スタッフのみんなも、選手たちも、私についてきてくれました。あなた方にこれから託されるのは、新しい監督を支えることです。それが重要なことなのです」。

実際、その後はがっかりすることも多いが、ファンはその言葉を忠実に守っている。成績が芳しくないときでも、後任の指揮官たちは、絶えずサポートされている。

いかにサー・アレックスの言葉に威力があるかの証明だ。

この試合のあとに最終戦が残されていたが、ホーソーンズでのウェスト・ブロムウィッチ戦は、5-5のドローというとんでもない試合になった。この試合をアウェー席で観戦できたファンは多くない。よって、現地観戦できなかったほとんどのファンにとって、オールド・トラッフォードでのスウォンジー戦が、サー・アレックスとの惜別の一戦となっている。

試合の内容はともかく、この日の午後は、多くのファンにとって、もっとも思い出深い、忘れられない瞬間となった。

そして、我々の世代に、望みうる最高の黄金時代を提供してくれた偉大な監督を送り出す、すばらしいフィナーレだった。

あの名戦をもう一度

サー・アレックスのオールド・トラッフォード最終戦から7周年目を記念して、12日(火)の現地時間19時(日本時間13日午前3時)から、公式アプリとManUtd.comでスウォンジー戦のフルマッチをストリーミング


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